視覚障害者のための電子書籍のアクセシビリティ基準                      2019年3月 公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会) 1 この「基準」の目的  ここ数年電子書籍が本格的に普及し始めてきた。漫画や雑誌が優勢で文芸書や 学術書が低調の感はあるが、スマホやタブレットの普及もあって、一つの読書ス タイルとして定着しつつあると言える。  この電子書籍のうち、リフロー型と呼ばれる形式の書籍は画面表示や書式等の 面で柔軟性があり、利用する側の見え方に合わせて、ある程度変更が可能である 。 また、テキスト情報を音声読み上げさせることも可能であり、視覚障害者の読書 の可能性を広げるものとして大いに注目されている。もし、視覚障害者に利用で きる電子書籍が増えれば、出版と同時に手を加えることなく、読みたい本を読め るという画期的な状況が生まれる。  このように大きな可能性を持つ電子書籍だが、今のところ、出版社等提供者側 に障害者に対する利用への配慮はほとんど意識されていない。現在販売されてい る電子書籍の中には今回、私たちが示すアクセシビリティ基準の条件の大部分を 満たしている図書もある。ところが、これは、出版社側に障害者へのアクセシビ リティを保障するという明確な意思や理念があって、その結果として存在してい るものではない。たまたま「使えている」状態にあると言ってよいのだ。つまり 、 米国の企業が、本国の障害者法の下開発してきた技術の大部分を日本でも採用し たためにもたらされた偶然の結果と言えるのである。  一方で「誰にも使える電子書籍」といううたい文句で、図書館向けの電子書籍 システムを販売する動きもある。こちらは、高齢者や障害者のアクセシビリティ に配慮したという点で話題になっているが、アクセシビリティの取り組みとして は不十分で、残念ながら視覚障害者の使用に耐えうるものとは言い難い。  このように電子書籍は大きな可能性のあるアイテムでありながら、このままで は視覚障害者に使うことのできない商品がまた一つ増えるだけになってしまう。 私たち・なごや会はこのような電子書籍の状況に強い危惧を抱いている。そこで 、 視覚障害者が電子書籍を利用するに際して不可欠な条件を「視覚障害者のための 電子書籍のアクセシビリティ基準」としてまとめることにした。  2016年4月に施行された「障害者差別解消法」や、これから法制化が見込 まれる「読書バリアフリー法(仮称)」の理念を実現するための社会的要求が今 後高まることになるだろう。それに伴い、障害者への配慮が求められることにな り、民間企業や図書館の責務もこれまで以上に問われることになる。  この基準が出版社等提供者側の指針となり、視覚障害者にも使いやすい電子書 籍の普及に繋がることを強く願うものである。  なお、この基準は2018年8月現在のものであり、今後、状況の変化により 見直す場合がある。 2 アクセシビリティ基準における定義と評価の方法 以下の基準は、主に視覚障害者(全盲、弱視者)と盲ろう者が電子書籍を利用す る際、必要とする機能や配慮をアクセシビリティ基準としてまとめたものである 。 1.定義 この基準において「電子書籍」とは出版社等がウェブサイトを通じて個人販売す る図書データ(コンテンツ)及び図書館が提供する図書データを指す。また、こ うした図書データに加え、それぞれのサービスが準備する検索サイト、販売サイ ト、閲覧用ブラウザも含む。 ただし、もともと障害者の利用を前提に製作・提供されている「テキストデイ ジー」と「マルチメディアデイジー」及びその関連アプリは含まない。 2.対象 この基準は以下の2系統の電子書籍を対象とする。 (1)PC、スマホ、タブレット等、端末側の合成音声に依存するもの (2)アプリ独自の固定された音声で使うもの(音のみのコンテンツ、いわゆる 「オーディオブック」は除く) 3 評価項目 以下、項目ごとにA、B、Cの3段階で評価付けを行う。 A、B、Cの意味は次の通り。 A.最低限必要な条件 B.あればより快適に使える条件 C.あれば十分に使いこなせる条件 (1)音声読み上げに関する事項 A. @音声読み上げができること A読み上げスピードの変更ができること B音声の種類が選択できること C本文中の文字検索ができること D本文中の文字を一文字ずつ音声で確認できること(詳細読みで) E今読んでいる位置が音声で確認できること B. @1行ずつの音声読み上げ(行読み)ができること A音声の高低の変更ができること (2)表示に関する事項 A. @文字種、文字の大きさ、文字色の選択ができること A背景色が選択できること B画面のレイアウトを変更して、右端で折り返すなど自動で見やすいように補正 されること C図版(図表、グラフ、イラスト等)の大きさを変えられること B. @縦書き横書きの変更ができること。 (3)操作性に関する事項 A. @ユーザー側の端末のスクリーンリーダーで閲覧用ブラウザの操作ができること A目次から見出し移動ができること Bしおり機能が使えること C図書館が提供する場合、本を選ぶ画面や貸出手続きが障害当事者の利用に配慮 されていること D電子書籍を購入する際の手続きが障害当事者の利用に配慮されていること B. @見出し間移動ができること C. @閲覧用ブラウザの操作が音声認識でもできること。 (4)その他の事項 A. @点字ディスプレイによる表示ができること Aテキストの読み込みの際の音声が途切れないこと B. @テキストの読み込みや見出し移動などの際の待ち受け音がじゃまにならないこ と C. @写真の説明を付けられること(キャプションの読み上げ機能を含む) A図表やグラフなど視覚情報に説明を付加できること B上記@・Aで付け加えた説明を読み上げするか、読み飛ばしをするかをユーザ ー が選択できること C固有名詞についてはルビを優先するか本文の読み上げを選択するかを選択でき ること D固有名詞や人名、読みの難しい地名などには読み辞書を付加し参照できること E読み辞書に読みを任意に登録できること 以上