平成27年 8月25日  国立国会図書館長  大滝則忠 様              公共図書館で働く視覚障害職員の会(なごや会)                             代表 大塚 強 国立国会図書館の障害者サービスに関する要望  貴館の視覚障害者等へのサービスに対する尽力に敬意を表します。  貴館が平成27年3月に公表した『視覚障害者等サービス実施計画2014−2016』はさまざまな理由で通常の活字による読書が困難な人の情報環境の改善に繋がるものと大いに期待しております。特に昨年から国立国会図書館と公共図書館が作成した障害者用録音図書、点字図書デジタルデータの収集と提供を開始し、サピエ図書館を通じて利用可能となったことは多くの障害者にとって利便性が高くなったことと評価します。  しかし、来年4月の障害者差別解消法の実施に当たり、活字による読書が困難な障害者にとって、国立国会図書館のサービスは十分とは言えないと思います。なごや会(公共図書館で働く視覚障害職員の会)は、特に以下の点について、ご配慮いただきたく、要望いたします。                     記 1. 国立国会図書館の採用試験に点字受験、音声パソコンによる受験を認め、視覚障害者を職員として雇用し、当事者の立場でサービスを実施してください。 回答:国立国会図書館では、従来視覚障害者の勤務に適した業務内容・業務形態を用意することができませんでした。しかし、ICTの進展や視覚障害者等を取りまくテクノロジー発達により、就労環境が大きく変わってきたことを踏まえて、国立国会図書館の業務に貢献していただける職務内容・業務形態として何があり得るかを検討しているところです。また、雇用形態についてもまずはどのような形からできるかを検討していきます。詳細に視覚障害者の勤務に関する事情を伺う機会を設ける一方で、非常勤や出向などによる就労、段階的な推進について検討を行っていく予定です。  採用試験の方法についても、点字・音声パソコンによる読み上げといった手段を用意することについて、採用後の職務のあり方と並行して検討しているところです。  改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止指針と合理的配慮指針の趣旨を踏まえて、検討をすすめることとしたいと考えております。 コメント:回答にたいしては、積極的に視覚障害者の採用に向け検討していただいているということで、なごや会としてはこれまでよりも踏み込んだものであると評価したいと考えています。 後日回答:国立国会図書館と人事交流のある公共図書館は、以下の4館です。 宮城県図書館 実務研修 福島県立図書館 実務研修 京都府立図書館 出向 大阪府立中央図書館 実務研修 いずれの館とも双方向の交流で、館名の後の実務研修、出向は人事交流の形態。 2. 国立国会図書館3館で同伴による対面朗読の場所提供だけでなく、図書館が自ら主体的に対面朗読を実施してください。 回答:国立国会図書館は、限られた資源・要員・予算・施設のなかで様々な事業を行っています。障害者サービスについては、各種図書館への支援・協力、視覚障害者等用データ送信サービスに注力して参りました。  館内サービスにおいては、残念ながら対面朗読者を国立国会図書館が主体的に用意できておりませんが、音声拡大読書器の設置、DAISY再生ソフト・画面読み上げソフトをインストールした点字ディスプレイ・点字キーボード接続閲覧用端末を用意しています。ただし、国際子ども図書館では、障害者用端末については平成29年1月に導入予定のため、現状では機器によるサービス提供はありません。 コメント:趣旨に沿ったうえでの実施を改めて要望しました。 後日回答:視覚障害者が単独で来館した場合のガイドラインについて尋ねたところ、各サービスについて必要なお手伝いや、移動等の一部介助をしていますが、個別のサービス内容に関する詳細なガイドラインは作成していません。利用者の方の求めに応じて、利用者登録、入館手続き、申請書への記入、端末検索等は、十分に相談をし、必要な場合は代行します。 3. 学術文献録音DAISY資料の製作期間の短縮をしてください。 回答:学術文献録音DAISY資料の製作は、外部委託により行っています。学術文献を対象としているため、高度な音訳技術を必要とし、一度に製作できる資料数が限られてしまいます。また、国立国会図書館は、全国の公共図書館・点字図書館からの依頼を受け、依頼があったタイトルのなかから製作対象を選定しています。 選定にあたりましては、依頼元の館や図書の分野の偏りが生じないよう考慮します。従いまして、依頼を受け付けてから製作に着手するまでにも一定の期間を要する場合があります。  今後学術文献録音DAISY資料の製作工程について見直し、製作する資料の質を落とすことなく、製作期間をより短縮できるかどうか検討をすすめて参ります。 後日解答: 製作依頼を受付した資料のリストを以下のHPで公開しています。 http://www.ndl.go.jp/jp/library/supportvisual/irai-ndl.txt 4. 学術文献図書の製作依頼にテキストDAISY、マルチメディアDAISY、テキストデータなどを追加してください。 回答:国立国会図書館では、共同校正システムを用いてデジタル化資料をテキスト化し、視覚障害者等に送信する実証実験を、本年4月から日本点字図書館と共同で行っています。この日本点字図書館との共同実証実験事業では、国立国会図書館デジタル資料から5点のテキストDAISYを製作して検証を行いました。今後この実証実験の成果を生かし、学術文献図書を録音音声DAISYだけでなくテキストDAISYとして、更にマルチメディアDAISYやテキストデータとして製作することについての検討をすすめて参ります。また、ご要望3.を踏まえましてこのテキスト化の共同実験の成果の活用により、学術文献をテキストDAISY等として製作することで、製作期間を録音音声DAISYよりも短縮できるかどうか検討をすすめて参ります。 5. デジタル化資料のテキスト化及びテキストデータの送信を国立国会図書館の全蔵書に対して実施してください。 回答:日本点字図書館との共同実証実験の成果を生かし、日本点字図書館等と協力しながら、テキスト化やテキストデータの送信を優先度の高いものからすすめて参ります。 6. 国立国会図書館のホームページを音声・点字・拡大ユーザーが快適に使えるようアクセシビリティの改善をしてください。 回答:国立国会図書館では平成24年7月に、「国立国会図書館ウェブサービスに関するユーザビリティーガイドライン」を、平成25年6月に、「国立国会図書館ウェブアクセシビリティ方針」を策定しました。これらに基づき、JIS X 8341-3:2010 高齢者・障害者等配慮設計指針−情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス−第3部:ウェブコンテンツ」における等級AAに準拠することを目標に、各ウェブサービスにおいて順次をすすめているところです。ホームページについては、平成25年11月及び27年3月にそれぞれ80画面の対応状況を調査し、その結果を踏まえ改善をすすめております。今後も継続して対応をすすめて参ります。 7. 視覚障害者等用データ送信サービスのコンテンツのみを検索可能な簡易検索ページを作成し、スクリーンリーダーや音声ブラウザからもストリーミングやダウンロードが容易にできるようにしてください。 回答:国立国会図書館では、平成27年6月30日から7月17日まで、視覚障害などの理由で印刷物を読むことに困難のある方を対象とした、インターネット利用に関する調査を行いました。9月16日には、この調査結果を元に視覚障害者の方を含む有識者に対して意見聴取を行いました。今回いただいた要望やこうした調査及び意見聴取の結果を踏まえて、視覚障害者等用データ送信サービスのより使いやすいインターフェースの提供に努めて参ります。