「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(案)」に関するなごや会の意見
「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(案)」は、2019年6月に成立した「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」に基づき、関係省庁等と関係者が構成する「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会」によってとりまとめられました。
なごや会(公共図書館で働く視覚障害職員の会)では、視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(案)」に関するパブリック・コメント(意見公募手続)の実施について(文部科学省)と「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(案)」に関する意見募集の実施について(e-Gov)の内容を常任委員会及び会員ML等を通じて意見を募り、その内容を以下の通りとりまとめ2020年5月11日に文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課障害者学習支援推進室 宛に提出しました。
パブコメの結果については「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する基本的な計画(案)」に関する意見のパブコメ結果についてに掲載しました。
なごや会が提出した基本的な計画(案)に関する意見
V 施策の方向性
1.視覚障害者等による図書館の利用に係る体制の整備等(第9条関係)
「基本的考え方」に対する意見
- 公立図書館の中でも都道府県立図書館が障害者サービスの推進において果たす役割は大きいといえる。そこで、都道府県立図書館には必ず障害者サービス担当部署を設置するとともに、専任職員やピアサポートのできる職員を配置すべきと考える。
- 上記@と同じ理由から、都道府県立図書館に対して「障害者サービス実施計画」を策定し、その実現を強く求めるものである。
(1)アクセシブルな書籍等の充実
「国立国会図書館」に対する意見
- 国立国会図書館における「学術文献録音資料」の制度は全国の公共図書館や点字図書館が、自館で録音資料として製作するのが困難と判断した専門書の製作を受け入れるものであることから、視覚障害者等にとって特に重要な制度であるといえる。したがって、以下の点について、改めて改善を求め、同制度の強化を望むものである。
ア.製作タイトル数の充実
イ.製作期間の大幅な短縮
ウ.「学術文献資料」の製作資料の種類としてテキストデイジー、マルチメディアデイジー、テキストデータを追加すること
- 国立国会図書館(東京本館、関西館、国際子ども図書館)において、利用者が音訳者を同伴した場合の場所の提供だけではなく、図書館が自ら主体的に対面朗読を実施するための体制整備が必要であると考える。
- 国立国会図書館への来館が困難な視覚障害者等に対して図書館職員や図書館協力者が「Zoomミーティング」や「Cisco Webex Meetings」のようなアクセシブルなウエブミーティングシステムを用いて、自宅にいる視覚障害者が国立国会図書館にある全蔵書を対象としたレファレンスや対面朗読を利用可能となるよう体制整備を行うことを求める。
「国立国会図書館と日本点字図書館が実施しているテキストデータ製作支援」に対する意見
- この知見を生かし、国立国会図書館の全蔵書を対象として、全国の図書館からのリクエストによるアクセシブルな電子書籍の製作に取り組むことを求める。
「(2)円滑な利用のための支援の充実 」に対する意見
- 点字図書館が視覚障害者以外の利用者に直接サービスを実施しようとする時、壁になるのが、利用対象を視覚障害者に限定している制度や点字図書館の運営基準等である。こうした制度や基準の見直しが急務であると考える。
- 視覚障害者への資料の提供において有力な手段となっている郵送貸出だが、これに関連する法律や制度の成立が古く、読書バリアフリー法がめざす「視覚障害者等」の支援においては対象となる障害種別が限定されているなど、制限が多く、活用が難しい。しかしながら、郵送貸出は視覚障害者以外の障害者への資料提供においても有力な手段である。自宅にいて、ネットを通じて入手できるデータではなく、アクセシブルな電子書籍等のうち何らかの記録メディアでの提供を望み、しかも来館が困難な障害者は多い。このような人たちにも活用できるようにするため、関連する法律と制度の改正が必要であると考える。
「2.インターネットを利用したサービスの提供体制の強化(第10条関係) 」に対する意見
- 国立国会図書館のウェブサイトを視覚障害者等が快適に使えるようアクセシビリティの改善を進めるとともに、「視覚障害者等用データ送信サービス」からストリーミングやダウンロードを容易に利用できるようにするために、専用の検索ページの設置が望まれる。
- 「公立図書館等」に含まれているのだろうが、学校図書館におけるサピエ図書館の必要性についてはもっと強調されてよいのではないか。小中高を合わせると、かなりの数になるし、年会費を支払っての利用となると、ハードルは高い。そのためにも国からの補助金の増額等安定的な運営体制に向けた支援策が必要であると考える。
4.アクセシブルな電子書籍等の販売等の促進等(第12条関係)
「(1)技術の進歩を適切に反映した規格等の普及の促進」に対する意見
- 現在、すでに流通しているリフロー型のEPUB形式の電子書籍では読み上げ機能をONにするだけですぐに利用可能になるものが多く出回っている。著者との関係からONにすることに消極的な出版社に対して具体的な対応が望まれる。
「(4)その他」に対する意見
- 図書館への電子書籍サービスの導入の推進は歓迎すべきことである。そして、「適切な基準」については、書籍そのものがアクセシブルであるのはもちろん、検索や閲覧の操作もアクセシブルであることを大前提に、基準の作成に際しては障害当事者も交えて検討し、よりユーザビリティの高い基準とすべきである。
また、図書館に対しては電子書籍サービスを導入する際はアクセシビリティが担保されているものを採用するよう働きかけることが望まれる。
「6.端末機器等及びこれに関する情報の入手支援、ICTの習得支援(第14条・第15条関係)」に対する意見
- 地方公共団体がアクセシブルな電子書籍等を利用するための点字ディスプレイ、デイジープレイヤー等の端末機器等の給付を行うに際して、その対象者を視覚障害で身体障害者手帳3級以下に拡げることと、視覚障害以外の障害者にも拡げるよう、国として地方自治体に対して具体的な対応策が望まれる。
8.製作人材・図書館サービス人材の育成等(第17条関係)
「基本的考え方」に対する意見
- 国立国会図書館においても対面朗読サービスを主体的に実施し、「学術文献録音資料」の制度を強化するためには音訳者等の資料製作者を館として養成し登録する必要があると考える。
「(1)司書・司書教諭、職員等の資質向上」に対する意見
- ピアサポートについては障害者サービスの充実と雇用促進の観点から、「視覚障害者等」にとって図書館が大きな可能性を持つ職場であることを各方面に対して発信する必要があると考える。
- ピアサポートの役割として、同じ障害のある利用者へのサポートに加えて、点字・音訳等、資料製作者への助言・指導も含まれると考える。
- 司書及び司書補の養成課程に障害者サービスを必須科目として組み込むことが望まれる。
「(2)点訳者・音訳者、アクセシブルな電子データ製作者等の人材の養成」に対する意見
- この計画案では対象外になっていると思われる社会福祉協議会に所属するボランティア団体もそれぞれの地域で視覚障害者等に対して支援活動を行っている。そこで、公立図書館や点字図書館等のネットワークに組み込み、製作基準の共有やノウハウ等の習得や研修への参加が可能になるよう対応を求めたい。
- 点訳・音訳等、資料製作の活動は、社会や時代の変化に伴い、これまでの善意の無償のボランティアでは成り立たなくなっている。そのことを踏まえ、点訳・音訳の活動は一定有償とすべきである。そのために財源を確保し、支援策を充実し、継続する必要があると考える。
- 製作人材については単純に人数の確保の問題にとどまらず、指導者の不足も深刻である。安定的な人材の確保と技術の維持・発展のためにも、点訳、音訳等の指導者の育成と身分保障を行う制度が必要である。
以上
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作成日:2020年5月11日、最終更新日:2020年8月2日